人脈は会社の資産ではない。身を削り積み上げた「信用残高」の証明である

かつて、某著名外資系企業のバッジを胸に、大手企業の役員応接室の重い扉を開けた時のことです。大理石のテーブルを挟み、緊張感の中で顧客のキーマンと対峙していました。

その場で、私は一つの事実を突きつけられました。

「案件は会社(看板)が取るのではない。人が取るのだ」という、営業の根本原則です。

企業ブランドのパワーは否定しません。会社の看板があれば、最初のドアを開ける手続きとしては有効です。しかし、本当に大切なのはその後に決まっています。

経営者や役員クラスが「この人と仕事をしたい」と動くかどうかは、会社名ではなく、個人への信頼(人間魅力)で決まるのです。

どれほど素晴らしい提案書を作成し、AIツールを導入して実務を効率化しても、現場を率いるトップやセールスの姿勢に顧客の真の課題では無く製品説明に寄った説明だとすべての商談は停滞します。

一軍のプロフェッショナルと、途中で思考を止めて打席を降りる二軍の差は、知識の量ではなく、「顧客と一対一の信頼関係を泥臭く積み上げられるか」という点に尽きます。

1.名刺交換の数を排す、4つの信用残高ガバナンス

 ① 年間1億円を叩き出す「執念の関係構築」

私はある大手企業との関係構築に数年をかけました。定期的に現場へ降り、耳の痛い課題に向き合い、時には自社製品では解決できない内容についても真摯に相談に乗り続けました。

その結果、お互いの心理コンディションが反転し、年間で1億円を超える大型ビジネスを創出するロードマップを掴み取ったのです。

 ② 担当交代で停滞する組織の歪み(プロセスの失墜)

しかし、その後担当者が顧客との関係を維持し自分の保身に走ってしまい結果としてその関係性を一瞬で失ってしまったことがあります。

その時に改めて痛感しました。人脈とは名刺交換の数ではない。逃げずに目線を合わせ続けた「信頼の積み上げ」です。そして信頼貯金は、一度失うと取り戻すのに途方もない時間がかかるのです。

 ③ 製品説明に逃げる「物売り営業」から脱皮できない

生成AIやAIエージェントで直ぐに提案書が作成できます。しかし、提案書を元に多くの営業はやはり物売り営業しているんです。何故なら、顧客の真の課題がAIに依存し、理解されておらずそのまま提案書の説明しなければならず、営業も

形状記憶の様に戻ってしまいます。

 ④ 顧客の未来を描ける力量

優秀な営業とは、マニュアル通りに製品を語る人間(メッセンジャー)ではありません。顧客の不安を正確に仕訳し、共に新しい事業を構想できる人(開拓者)です。

私は65歳を迎えた今も、新しいお客様との出会いや、未完成な製品を磨きながら市場を切り拓く打席にワクワクしています。ビジネスの本質はシステムではなく、人と人との信頼関係(人間魅力)の上に成り立っていると確信しているからです。

これからAIの時代がどれほど加速しても、「誰と仕事をするか」という原則だけは決して変わりません。AIはデータを整理し信頼を補完することはできても、信頼そのものを創り出すことは不可能です。人脈とは長年かけて積み上げてきた「信用残高」であり、これこそがAIに操られず市場に立ち続けるための最高の資産となります。

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