最近、大手企業による希望退職や早期退職募集のニュースを目にする機会が増えている。
新聞やテレビでは、「AI導入による業務効率化」「デジタル化への対応」「生成AI活用による組織改革」といった言葉が並ぶ。
確かにAIは企業活動を大きく変えつつある。しかし、私は長年企業経営や営業組織の現場に携わってきた経験から、少し違う見方をしている。
結論から言えば、
AIを導入しただけでは会社は変わらない。
変わるのは、AIそのものではなく、人の使い方と組織運営の仕組みである。
現在、多くの企業がAI導入を進めている。議事録作成、情報収集、契約書確認、営業資料作成、問い合わせ対応など、これまで人が行っていた業務の一部は確実に自動化され始めている。特に銀行、保険、製造業などの間接部門では、その効果が顕著に現れている。
しかし、ここで一つ誤解がある。
世間では、「AIが人間の仕事を奪う」
と言われるが、現実はそれほど単純ではない。
例えば、100人で行っていた業務がAIによって50人でできるようになるケースは決して多くない。実際には、「100人の仕事が80人でできるようになる」程度であることがほとんどだ。問題は、その余った20人をどうするかである。
欧米企業であれば即座に人員削減が行われることもあるが、日本企業はそう簡単にはいかない。結果として、
採用抑制、
配置転換、
自然減、
希望退職制度、
といった方法で、時間をかけながら人員構成を変えていくことになる。
つまり、
AI導入はリストラの直接的な原因ではなく、人員最適化を進めるための手段に過ぎない。
では、企業はなぜ今、人員構成の見直しを急いでいるのだろうか。
その理由はAIではない。本当の理由は「人件費」である。
近年、日本企業は深刻な人手不足に直面している。
新卒初任給は30万円時代に入り、賃上げ要求も強まっている。さらに社会保険料や福利厚生費も上昇し続けている。企業にとって、一人の社員を雇用するコストは年々重くなっている。年収600万円の社員であっても、企業負担分を含めれば年間800万円近いコストになることも珍しくない。一方で、AIサービスやAIエージェントの利用料は年間数十万円から数百万円程度である。経営者がその差を意識しないはずがない。
だからこそ、多くの企業はAIを導入する。
しかし、それは人を不要にするためではなく、限られた人材でより高い成果を生み出すためである。その中で、最も大きな影響を受けるのが中高年管理職層である。
高度成長期からバブル期にかけては、
部下を管理すること、
会議に出席すること、
稟議を承認すること、
それ自体が価値だった。
しかしAI時代には違う。
これから求められるのは、
自ら顧客と向き合う力、
新しい事業を構想する力、
組織を変革する力、
である。
単に管理するだけの管理職は、その存在意義を問われることになる。
だから近年の希望退職制度では、50代以上の管理職層が対象になるケースが増えている。
これはAIの問題というより、企業の年齢構成や組織構造の問題なのである。
一方で、AIによって価値が高まる人材も存在する。
それは、
人脈を持つ人、
顧客から信頼される人、
経営経験を持つ人、
現場で修羅場を経験してきた人、
である。
AIは提案書を作ることはできる。
AIは情報収集もできる。
しかし、経営者の悩みを理解し、信頼関係を築き、最終的に意思決定を動かすことはできない。
そこには人間にしかない価値が残る。
今後10年で、事務職や中間管理職の役割は大きく変化するだろう。
しかし、企業経営の本質は変わらない。
顧客を理解し、
価値を提供し、
利益を生み出し、
人を動かす。
その中心にいるのは、これからも人間である。
だから私は言いたい。
変わるのは、AIをどう活用するかを決める経営者の覚悟であり、組織の在り方である。
AIは魔法の杖ではない。
会社を変えるのは、いつの時代も人なのである。


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