かつて、数億円から数十億円規模の契約を交わす打席でのことです。お客様に署名をいただく際、私は深く考えず、100円ショップで買ったボールペンを差し出しました。
その時、お客様から静かに言われたのです。
「岡田さん、もう少しボールペンには投資をした方がいいよ」
今思えば恥ずかしい話ですが、当時の私は道具への投資という視点が完全に抜け落ちていました。安価なペンは重要な局面でインクが出なくなるリスクがあります。何より、企業の命運を分ける決断の署名をいただく場で、チープな道具を差し出す行為そのものが、プロとしての配慮に欠けていたのです。
この失敗を機に、私は道具選びの重要性を痛感しました。当時、最高峰とされるM社か、あるいはC社のどちらを選ぶべきか真剣に悩み、最終的にC社のボールペンを購入しました。
この選択は、私のビジネスに対する姿勢を大きく変えました。
C社のペンは、驚くほど滑らかに紙の上を走ります。このペンで堂々と契約を交わしたいという思いが、不思議と自分自身のメンタリティ(プロ意識)を大きく向上させてくれたのを記憶しています。ボールペンとは単なる事務用品ではなく、社会人として戦うための重要な武器だったのです。
現在は電子署名や電子取引が主流となり、ビジネスの現場でボールペンが活躍する機会は確かに減少しました。
しかし、道具に宿るプロとしての姿勢や、相手への敬意という本質は変わりません。私は久しぶりにそのボールペンのインクを買い替えました。今度は自らの利益のためではなく、次世代への支援や社会貢献という新しい打席のために、この武器を大切に使っていこうと考えています。


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